「Bad Boy」はビートルズのカバー曲の中でも、ちょっと特殊な立ち位置だ。
なぜならこれ、当時の北米レーベル(Capitol)がアルバムを組む都合で「新曲が足りねえ!」となって、アメリカ盤のために録られた色が濃いから。
でも内容は雑な埋め草じゃない。
ライブで鍛えた曲を、短時間・少テイクで確定させて、さらに同じ夜にミックスまで終わらせる。
“現場の強さ”がそのまま音になってる一曲だ。
1) ざっくり年表(迷子防止)
- 1959:ラリー・ウィリアムズの原曲「Bad Boy」発表
- 1960年代前半:ビートルズのライブ・セットに定着(キャバーン時代からやってた曲)
- 1965-05-10:アビー・ロード(EMI Studio Two)で録音(4テイクで完成)→同日深夜にモノ/ステレオ・ミックスまで作成
- 1965-06-14:米アルバム『Beatles VI』で初リリース(米ではここが初出)
- 1966-12-09:英コンピ『A Collection of Beatles Oldies』でUK初出(この盤で唯一の“新曲枠”)
- その後:編集盤『Past Masters』系で世界的に聴ける定番曲へ
2) 原曲の背景:ラリー・ウィリアムズは“英国勢の教科書”だった
ラリー・ウィリアムズは、50年代後半のR&B/ロックンロールの荒々しさを、そのまま曲に封じ込めたタイプ。
英国のバンド連中がこぞってカバーしたのも納得で、ビートルズも例外じゃない。
実際ビートルズはラリー曲を何曲もやってるが、「Bad Boy」はその中でも後期寄り。
つまりこれは「初期の勢い」じゃなく、“プロになった後に、あえて原点の荒さを出しに行った”カバーでもある。
3) なぜ1965年に録った?──答え:アメリカ盤アルバムの“玉数”事情
1965年当時、英盤と米盤は内容がズレまくる。
Capitolは英盤をそのまま出すより、曲を抜いたり足したりして“別アルバム”を作るのが普通だった。
で、『Beatles VI』を作る段階で「新しめの曲が足りない」。
そこで白羽の矢が立ったのが、ライブで完成してるラリー曲2発──
- 「Bad Boy」
- 「Dizzy Miss Lizzy」
この2曲を同じ夜にまとめて録って、米盤の穴を塞ぐ。
制作史としては、かなり露骨に“実務”が見える瞬間だ。
4) 1965-05-10:録音の中身が痛快すぎる(4テイクで完成)
この日のセッションは夜(8〜11:30)に行われて、「Bad Boy」は4テイクで完了。
ポイントはテイク構造がはっきりしてること。
- テイク1〜3:リズムトラック中心(まず土台を固める)
- テイク4:ここに一気に上物を載せて完成
- ジョン:リードボーカル(この曲はジョンの“荒い艶”が主役)
- ジョージ:リードギターをダブルトラックで厚く
- ポール:Hohner Pianet(エレピ)のクセで“硬い跳ね”を足す
- リンゴ:ドラム+タンバリンで推進力
ライブの勢いがある曲だから、スタジオで迷う必要がない。
「完成してるから短時間で勝てる」ってやつ。
5) 同じ夜に“ミックスまで”終わらせる:深夜の1:15まで突っ走る
さらに面白いのが、録音が終わった後の流れ。
この夜はコントロールルームでモノ→ステレオの順にミックスまで作って、深夜1:15頃まで作業してる。
つまり「録ったから次回仕上げよう」じゃない。
“米盤の締切に合わせて、その夜のうちに商品形へ寄せる”運用をやってる。
6) リリース史のクセ:米が先、英は1年半遅れで“クリスマス穴埋め”として出る
「Bad Boy」が面白いのは、曲の出来だけじゃなく“出され方”。
- 米国:1965-06-14 『Beatles VI』で即リリース
- 英国:1966-12-09 『A Collection of Beatles Oldies』でやっと登場
英盤の『Oldies』は「新作が無い年末を埋める」ための編集盤で、そこでの“唯一の未発表曲”が「Bad Boy」。
つまり英国ファンからすると、これは 「遅れて届いた米国限定カバー」みたいな扱いだった。
7) 聴き方ガイド(一般向け:ここだけ押さえりゃOK)
- ジョンのボーカル:丁寧に歌ってない。そこがいい。荒さが“曲の正義”になってる
- Pianetの硬い跳ね:ピアノじゃなくエレピのクセが、音を“ガレージ寄り”にする
- ギターの厚み:ジョージのダブルトラックが地味に効いて、ただの勢いカバーで終わらない
- 「Dizzy Miss Lizzy」と連続で聴く:同日録音の“ラリー2連発”として聴くと制作の意図が見える
まとめ(この曲の本質)
「Bad Boy」は、
米盤アルバムの都合で録られた“実務カバー”なのに、ライブで育てた強みで4テイク勝ちし、その夜にミックスまで終わらせた一曲だ。
要するに、ビートルズの怖さが出てる。
事情で録っても、仕上がりはちゃんと強い。そういう曲。
参考リンク(検証用)
- Beatles Bible(曲ページ:テイク構造/担当楽器/英米リリース日)
https://www.beatlesbible.com/songs/bad-boy/ - Beatles Bible(1965-05-10:録音〜深夜ミックスまでの流れ)
https://www.beatlesbible.com/1965/05/10/recording-mixing-dizzy-miss-lizzy-bad-boy/ - The Beatles 公式(録音日・米リリース日など)
https://www.thebeatles.com/bad-boy - Beatles Bible(1966-12-09:UK『Oldies』で唯一の未発表曲として収録)
https://www.beatlesbible.com/1966/12/09/uk-lp-a-collection-of-beatles-oldies/ - 原曲(Larry Williams)の概要(年・背景の確認用)
https://en.wikipedia.org/wiki/Bad_Boy_(Larry_Williams_song)

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