【制作史で読む】The Beatles「Baby’s in Black」──“3拍子の哀歌”で一気に大人になる。ツアー疲れの1964を鳴らした一曲

「Baby’s in Black」は『Beatles for Sale』の空気を決める曲の一つだ。
明るいラブソングの連打じゃなく、“喪失”とか“疲れ”の影がスッと差し込む。しかも拍子は3/4。ビートルズでこの手触りは当時かなり新鮮だった。

制作史を辿ると、さらに面白いポイントがある。

  • ツアーの最中にホテルで共作(二人が同じ部屋でガッツリ)
  • 『Beatles for Sale』で最初に録られた曲(=アルバム制作の“初手”)
  • ジョンとポールが同じマイクに向かって同時に歌うという、距離感勝負の録り方
  • イントロの“あの一音”に悩み、ジョージが何度も試す(けど採用されない)

1) ざっくり年表(迷子防止)

  • 1964年夏:ツアー中のホテルでジョン&ポールが共作
  • 1964-08-11:アビー・ロード(EMI)Studio Twoで録音(14テイク、当日で完成)
  • 1964-08-14:ジョン個人用にラフなモノ・ミックスが作られる(粗ミックス)
  • 1964-12-04:英『Beatles for Sale』でリリース
  • 1964-12-15:米『Beatles ’65』にも収録(米編集盤事情で扱いが変わる)
  • 1964〜1966:ライブ定番曲として最終ツアーまで演奏

2) “黒い服の彼女”=ただの恋の歌じゃない

タイトルの通り、テーマは「黒」。
彼女は喪に服すように黒を着ている。語り手は彼女を想ってるのに、彼女の心は“別の誰か”に縛られている──そんな、救いにくい構図だ。

ここが重要で、当時のビートルズが狙ってたのは「泣かせ」じゃなく、
“ちょっと大人の陰り”を入れてアルバムの色を変えることだったっぽい。


3) 3/4拍子が効いてる:ワルツの形で“重さ”を自然に出す

この曲の勝ち筋は3/4。
4/4で重くやると説教臭くなるところを、ワルツっぽい揺れで“自然に沈む”。

しかもジョンとポールが上下で絡み合うメロディになってて、「どっちが主旋律?」って聞かれるレベルで拮抗してるのが強い。
歌の作り自体が“二人で書いた”証拠になってるタイプ。


4) 1964-08-11:『Beatles for Sale』最初の録音日──14テイクで一気に決める

制作史の中心はここ。
この日、彼らはこの曲だけに集中して、14テイク回す。完成テイクはその中で少数、つまり「勢いで押す」より「形を整える」寄りのセッションだった。

そして超重要ポイントがこれ。

4-1) ジョン&ポールが“同じマイク”に向かって同時に歌う

普通は別マイクで分けるのに、ここはあえて距離を詰めて歌ってる。
狙いは「ライブの密着感」。声が混ざることで、二人の哀しさが一塊になる。

4-2) イントロの“一音”問題

イントロの最初のギターの一音。
この“たった一音”に悩み、ジョージが色んなパターンを試した(編集用の断片まで録った)けど、最終的に採用されない。

ここが制作のリアルだ。
悩んだ痕跡は残るのに、成果は表に出ない。でも、その“悩み方”が作品の質を押し上げてる。


5) 08-14のラフ・ミックス:ジョンが持ち帰る用の“粗い確認音源”がある

録音から数日後、ジョンの個人用としてラフなモノ・ミックスが作られた記録がある。
アルバム用の正式作業とは別に、こういう“持ち帰って聴く”運用がすでにあるのが面白い。

「録って終わり」じゃなく、録った後の確認→次の判断までが制作の一部になってる。


6) ライブでの立ち位置:観客が叫ぶ中で“陰った曲”をねじ込む

「Baby’s in Black」は、その後のツアーでも演奏され続ける。
当時の現場は叫び声で音が埋まるのに、そこへ“陰った3拍子”を入れるのは相当攻めてる。

曲紹介で「次はちょっと違うやつ」みたいなニュアンスを言ってた、という話が残るのも納得だ。
観客が理解するかどうかより、バンドが“かっこいい”と思うものを通す感じが出てる。


7) 聴き方ガイド(一般向け:ここだけ押さえりゃOK)

  • 3/4の揺れ:足で数えると気持ちよさが分かる(暗いのに流れる)
  • 二人の歌の絡み:上(ポール)と下(ジョン)が主役争いしてるのがミソ
  • イントロの最初のギター:派手じゃないのに“空気が変わる”一音
  • 全体のトーン:『Beatles for Sale』の“疲れと陰影”の入口として聴くと刺さる

まとめ(この曲の本質)

「Baby’s in Black」は、
ツアーの真っ最中に共作され、『Beatles for Sale』の制作初手として14テイクで磨かれ、二人が同じマイクで歌う“密着感”によって哀しさを固めた曲だ。

明るさだけのバンドじゃない。
1964年のビートルズが“影”を武器にし始めた、その合図がここにある。


参考リンク(検証用)

  • Beatles Bible(曲ページ)
    https://www.beatlesbible.com/songs/babys-in-black/
  • Beatles Bible(1964-08-11 セッション詳細:14テイク/同一マイク/イントロ一音の試行)
    https://www.beatlesbible.com/1964/08/11/recording-babys-in-black/
  • Beatles Bible(1964-08-14:ラフなモノ・ミックスの記録)
    https://www.beatlesbible.com/1964/08/14/recording-mixing-im-a-loser-mr-moonlight-babys-in-black-leave-my-kitten-alone/
  • The Beatles 公式(曲ページ)
    https://www.thebeatles.com/babys-black
  • Wikipedia(概要整理)
    https://en.wikipedia.org/wiki/Baby%27s_in_Black

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