「And I Love Her」は、ビートルズの“しっとり枠”の代表みたいに扱われる曲だ。
でも制作史を追うと、これは最初から完璧に出来てたわけじゃない。むしろ何度も作り直して、最後に「これだ」で決まったタイプ。
そして決定打になったのが、ジョージ・ハリスンの導入リフ。
ポールが「この曲はあのイントロがなかったら成立しない」レベルで語るほど、曲の顔を一瞬で決めたフックだ。
1) ざっくり年表(迷子防止)
- 1964-02-25:録音開始(ただし“電気編成”でやってみて、方向性が違うと判断)
- 1964-02-26:アレンジを変えながら16テイク録るが、まだ納得いかない
- 1964-02-27:再録音。たった2テイクで“完成形”へ
- 1964-07-10:英アルバム『A Hard Day’s Night』発売(収録曲として世に出る)
- 1964-07-14:BBC『Top Gear』で演奏(スタジオ外での演奏は非常にレア)
- 1964-07-20:米国でシングル発売(B面「If I Fell」/全米12位)
- 1995:初期テイクが『Anthology 1』に収録(別アレンジの姿が聴ける)
2) 生まれ方:ポールの“映画向けバラード”が、現場で磨かれた
この曲は基本的にポール主導のバラードとして語られることが多い。
ただ“ポールが家で完成させた名曲”というより、スタジオで形が整ったニュアンスが強い。
実際、録音初日はフル電気編成で録ってみたけど、「欲しい質感と違う」と判断してすぐ方向転換している。
この時点で「曲は良い。でも鳴らし方が決まってない」という状態だったのが分かる。
3) 1964-02-25〜27:3日間で“別の曲みたいに”変わった録音セッション
この曲の制作史で一番おいしいのは、ここ。
3日間で、録り方そのものが変わっていく。
3-1) 2/25:まず電気でやってみる → 違う、と判断
2/25は2テイクだけ。
“バンドの勢い”で押し切る感じの電気編成で一回形にしてみたが、目指す雰囲気ではなかった。
この日の完成テイク(別バージョン)は後に『Anthology 1』で聴ける。
ここで「ロックの手触り」じゃなく「柔らかい空気感」を優先する方針が決まる。
3-2) 2/26:16テイク録る(=迷ってる日)
次の日は、アレンジを変えつつ16テイク。
数だけ見ると「これで決まりそう」なのに、結局まだ納得がいかない。
この段階は、スタジオで“良さ”は見えてるのに、決定的な形が足りない状態だったと思う。
3-3) 2/27:再録音して2テイクで決まる(突然、着地)
そして2/27。
ここで再録音し、たった2テイクで完成形に寄る。
この“急に決まる”パターン、ビートルズの強さが出てる。
迷った時間が無駄じゃなくて、最後の一撃のための助走になってる。
4) 決定打:ジョージの導入リフが「曲の顔」を作った
「And I Love Her」を“名曲”にした最大の仕掛けは、
サビでも歌でもなく、最初の数秒だ。
プロデューサーのジョージ・マーティンが「導入が欲しい」と言った瞬間に、ジョージ・ハリスンがリフを弾いて提示した――というエピソードが残っている。
このリフがあることで、
- 曲の世界観が一瞬で決まる
- “ただのバラード”じゃなく、記憶に刺さるフックになる
- 歌が始まる前に、もう勝ってる
という状態になる。
冷静に考えると、イントロで勝負が終わってる曲って相当強い。
5) もう一つの仕掛け:ソロの“半音上がる”感じが効きすぎる
この曲、ギターソロで空気が少しだけ変わる。
鍵は「半音の持ち上げ」。
ここも制作史で語られるポイントで、マーティンの提案として“音楽的な満足感が出るスイッチ”が入った、と説明されることがある。
派手な転調じゃないのに、耳が「おっ」となる。
この小さな仕掛けが、曲の格を一段上げてる。
6) リリース事情:英はアルバム曲、米はシングルで勝負
英国では『A Hard Day’s Night』の収録曲として登場。
映画と同時期のアルバムの中で、“勢いのロック”だけじゃなく“品のあるバラード”を置く役割を担っている。
一方アメリカでは、シングルとして発売される。
しかもB面が「If I Fell」という、これまたバラード寄りの強曲。
米国は当時「シングルで回す力」が大きい市場だから、ここで“売る”判断をしている。
結果、全米でしっかりヒット(最高12位)。
「アルバムの隠れ名曲」じゃなく、ちゃんと前線で戦った曲になった。
7) レアな後日談:スタジオ外でほぼ演奏されない
この曲、意外なほどライブでやってない。
ビートルズがスタジオ以外で演奏したのは、BBCの『Top Gear』用の1回が有名なくらいで、基本的に“録音で完成した曲”として扱われている。
これも納得で、演奏そのものより「質感」「空気」「配置」が命だから、ステージで再現する優先度が低かったんだと思う。
8) 聴き方ガイド(一般向け:これだけでOK)
- まずは正規盤(『A Hard Day’s Night』収録)
“完成形”の気持ちよさを味わう。イントロ→歌への入りだけで勝ってる。 - 次に『Anthology 1』の初期テイク
「この曲、最初はこういう方向だったのか」が分かる。完成形が“磨かれた理由”が見える。 - 最後にイントロだけ意識して聴く
あの数秒が、曲の価値を決めてる。ここに全てがある。
まとめ(この曲の本質)
「And I Love Her」は、
3日間の試行錯誤で“鳴らし方”を見つけ、ジョージのイントロで決定したバラードだ。
- 電気でやって違うと判断し
- 16テイク迷って
- 最後は2テイクで着地する
そして、たった数秒のリフが曲を永遠にした。
制作史を知るほど、“静かな名曲”じゃなく “現場で勝ち取った名曲” に見えてくるはずだ。
参考リンク(検証用)
- 曲ページ(録音日・作り直しの流れ/BBC演奏など)
https://www.beatlesbible.com/songs/and-i-love-her/ - 英アルバム『A Hard Day’s Night』発売日(公式)
https://www.thebeatles.com/hard-days-night-0 - 米シングル発売(1964-07-20/Capitol 5235/B面「If I Fell」/全米12位)
https://www.beatlesbible.com/1964/07/20/us-singles-and-i-love-her-ill-cry-instead/ - 補助(米シングル表記・録音期間など)
https://en.wikipedia.org/wiki/And_I_Love_Her

コメント