【制作史で読む】The Beatles「Devil in Her Heart」──無名ガールグループのB面曲を拾って、ジョージの“優しいリード”で磨き上げた『With The Beatles』の隠れ名カバー

「Devil in Her Heart」は『With The Beatles』収録のカバー曲。
派手じゃない。でも、アルバムの中でちゃんと効いてる。理由は単純で、ジョージのリードが“甘すぎず、冷たすぎず”でちょうど刺さるからだ。

制作史の肝はここ。

  • 原曲はアメリカのガールグループ The Donays の「Devil in His Heart」(タイトルだけ“His→Her”に変更)
  • 『With The Beatles』の最初の録音日(1963年7月18日)で録られた、いわば“新章スタートの一曲”
  • 短時間で決着(テイク数は資料で表記ゆれがあるが、少なくとも“あっさり決めた部類”)
  • 仕上げは小物(マラカス等)を足して、軽く跳ねる質感に寄せた

1) ざっくり年表(迷子防止)

  • 1962年:The Donays「Devil in His Heart」リリース(後に別レーベルでも出回る)
  • 1963-07-18:EMI(Abbey Road)でビートルズ版を録音(『With The Beatles』最初のセッション)
  • 1963-08-21:アルバム用のモノ・ミックスがまとめて作られる(この日はビートルズ不在)
  • 1963-11-22:英『With The Beatles』発売(収録曲として世に出る)
  • 1963-09-03:BBCでも演奏(のちにBBC系音源集で聴ける)

2) “無名の原曲”を拾うセンス:ビートルズのカバーは格が違う

『With The Beatles』はカバー比率がまだ高い時期。
でも選曲が渋い。「誰でも知ってる大ヒット」じゃなく、ちょい脇道の良曲を拾ってくる。

「Devil in Her Heart」もその典型で、原曲は“隠れた良曲”枠。
それを

  • ジョージの穏やかなリード
  • ジョン&ポールの支えるコーラス
  • “少しだけ軽く弾む”リズム

で、アルバムの流れに自然に溶かしてる。


3) ジョージの配置がうまい:2ndアルバムで“色”を足す役

ジョージはこの時期、アルバムごとにリード曲が増えていく。
『With The Beatles』だと「Roll Over Beethoven」みたいな強い曲もあるが、「Devil in Her Heart」は逆に

  • 声を張らない
  • 感情を盛りすぎない
  • だから逆に“信用できる語り口”になる

って方向で、ジョージの幅を見せる役になってる。


4) 1963-07-18:『With The Beatles』の“初日”に録る意味

この日(7/18)は『With The Beatles』の最初の録音セッションで、

  • You Really Got a Hold on Me
  • Money (That’s What I Want)
  • Devil in Her Heart
  • Till There Was You(この日は決着しきらず後日)

みたいに、カバー中心で一気に進めてる。
つまり「新アルバム制作の空気」を作る日だ。

ここで「Devil in Her Heart」を録ってるのは、アルバムの方向性として

  • まだステージのレパートリーを“音盤に移す”強さ
  • その中でジョージの色も混ぜる

という狙いが見える。


5) テイク数の表記ゆれ:でも“短期決戦”なのは共通

資料によって「3テイク」「6テイク」みたいに数字が揺れることがある。
ただ、どっちにせよ“延々ハマって苦しんだ曲”じゃない。
わりとサクッと形を作って、必要なオーバーダブで整えたタイプだ。

この曲の勝ち筋は、技巧じゃなく“雰囲気”。
だからこそ、長期戦より短期決戦が似合う。


6) 仕上げの肝:マラカス1つで“曲の表情”が変わる

この曲の音像は、ド派手なギミックじゃない。
小物で“軽さ”を足して、甘すぎないポップさに寄せる。

  • リードはジョージのダブルトラック気味の安定感
  • コーラスはジョン&ポールが“背中を押す”配置
  • そこへマラカスが入ると、曲が急に“跳ねる”

この“軽さの足し算”が、アルバム中の配置に効く。


7) “His→Her”で何が変わる?:視点の切り替えで歌が締まる

原曲は「Devil in His Heart」。
ビートルズ版は「Devil in Her Heart」。

これ、単に性別を変えただけじゃなくて、歌い手(ジョージ)のキャラに合う。
ジョージの声って、攻撃的に煽るより、静かに疑うのが似合うんだよ。
だから「彼女は危ないかもしれない」ってテーマが、妙に説得力を持つ。


8) 1963-08-21:ミックスは“現場不在”で進む(もう工場みたいになっていく)

8月にはアルバム用のモノ・ミックスがまとめて作られる。
この日はビートルズがスタジオにいない記録もあって、制作が“分業化”していく時代の匂いがある。

初期は「メンバーが立ち会って、現場で決める」比率が高い。
でも作品数が増えると、こういう日が増える。
『With The Beatles』って、その“移行期”でもある。


9) BBC版の存在:スタジオ盤と“現場”の差が見える

「Devil in Her Heart」はBBCでも演奏していて、のちのBBC音源集で聴ける。
こういう曲は、スタジオ盤が整ってるほど、BBC版で

  • テンポの違い
  • コーラスの圧
  • 演奏の“勢い”

が見えて面白い。
「こいつら、カバーを“自分の持ち歌”として持ってたんだな」が分かる。


10) 聴き方ガイド(一般向け:ここだけ押さえりゃOK)

  • ジョージの声の温度を聴け
    盛らないのに、ちゃんと不安が残る。そこが渋い。
  • コーラスの支え方
    ジョン&ポールが“前に出ない”のに厚い。職人仕事。
  • マラカスで表情が変わる瞬間
    地味だけど、曲のポップさを決めてる。
  • BBC版で確認
    “持ち歌としての強さ”が見える。

まとめ(この曲の本質)

「Devil in Her Heart」は、
無名寄りのガールグループ曲を拾い、ジョージの穏やかなリードで“疑いの色気”に変換し、短期決戦の録音+小物オーバーダブでアルバムに馴染ませた、地味に強いカバーだ。

派手じゃない。だが、聴き返すほど効いてくる。そういう一曲。


参考リンク(検証用)

  • The Beatles 公式(曲ページ)
    https://www.thebeatles.com/devil-her-heart
  • Beatles Bible(曲ページ)
    https://www.beatlesbible.com/songs/devil-in-her-heart/
  • Beatles Bible(1963-07-18 セッション)
    https://www.beatlesbible.com/1963/07/18/recording-you-really-got-a-hold-on-me-money-devil-in-her-heart-till-there-was-you/
  • Beatles Bible(1963-08-21 編集・ミックス)
    https://www.beatlesbible.com/1963/08/21/editing-mixing-with-the-beatles-songs/
  • Wikipedia(原曲:The Donays “Devil in His Heart”)
    https://en.wikipedia.org/wiki/Devil_in_His_Heart
  • Beatles Bible(BBC音源集:On Air – Live At The BBC Volume 2)
    https://www.beatlesbible.com/albums/on-air-live-at-the-bbc-volume-2/
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