【制作史で読む】The Beatles「Cry Baby Cry」──童謡の“王様と女王”を、ホワイト・アルバム流の不穏な夜へ。しかも後ろに“謎の無記名曲”が貼り付く

「Cry Baby Cry」は『The Beatles(ホワイト・アルバム)』終盤、「Savoy Truffle」の次、そして「Revolution 9」の直前に置かれた“妙に暗い童話”だ。
ジョンの歌なのに、かわいさより不気味さが勝つ。しかも曲が終わったと思った瞬間、ポールの即興断片(通称「Can You Take Me Back?」)がスッと挟まって、次の地獄(Revolution 9)へ渡す。

制作史で面白いポイントはこの3つ。

  • 童謡/子ども時代のイメージを借りてるのに、着地が“オカルト寄り”
  • 1968年7月の数日で作るが、途中でエンジニアがブチ切れて現場を去るレベルの緊張も同居
  • “曲そのもの”の後ろに、別日の別セッションで録ったポールの即興を編集で貼り付けて、アルバムの流れを作ってる

1) ざっくり年表(迷子防止)

  • 1968年春:ジョージ宅(エシャー)のデモ時点で原型が見える
  • 1968-07-15:本録り前の長時間リハ/リール4本分を試す(多くが後で消去)
  • 1968-07-16:本録り開始。10テイク → 土台はTake 10系が核
  • 1968-07-18:仕上げの同時多発オーバーダブで“完成”へ(ボーカル差し替え、ハーモニウム導入、効果音など)
  • 1968-09-17:8トラックへ転送(追加演奏は無し)
  • 1968-10-15:モノ/ステレオのミックス(冒頭アコギにフランジャーっぽい揺れが付く)
  • 1968-09-16(別件):ポールの即興「Can You Take Me Back?」録音(「I Will」セッション)
  • 1968-11-22:ホワイト・アルバム発売(「Cry Baby Cry」→即興断片→「Revolution 9」)

2) 背景:子どもの童謡を借りて、わざと“暗い部屋”へ持ち込むジョン

この曲の骨格は、童謡っぽい“王様・女王・公爵夫人”みたいな言葉遊びだ。
ただしジョンがやると、絵本の世界がそのまま明るくならない。

  • 王様や女王が出てくるのに、やってることは妙に現実っぽい(台所だの、会合だの)
  • そこへ深夜の集まり降霊会(seance)みたいな匂いが混ざる
  • 童謡の“安心感”を、ゆっくり腐らせる感じになる

ジョン自身は後年この曲をボロクソに言ったりもするが、
ホワイト・アルバムの“陰の童話枠”としては、むしろかなり完成してる。


3) ネタ元の一つ:CM由来のフレーズ+童謡の構図

この曲、出発点がいかにもジョンらしい。

  • CM(広告)由来の言葉が最初の引き金
  • そこに童謡(王様・女王・庭・台所みたいな構図)を重ねる
  • で、最後に“夜の儀式”みたいな不穏さへ落とす

つまり「高尚な詩」じゃなく、安い言葉と古い童謡を混ぜて、雰囲気で勝つタイプ。


4) 1968-07-15:まず“形”をスタジオで探す(大量リハ → 大半が消える)

7/15は「本番テイク」じゃなく、延々とリハして形を固める日。
テープもかなり回したらしいが、後のセッションで上書きされて消えたものが多い。

ここがホワイト・アルバムらしいポイントで、

  • 以前みたいにメンバー同士で事前に詰めず
  • スタジオで初めて聴く曲も増え
  • “現場で擦り合わせる”比率が上がってる

結果、音は豊かになる一方で、現場の空気は荒れる。


5) 1968-07-16:本録り開始(10テイク)→ Take 10が土台になる

翌7/16に本録りが始まる。ここで10テイク録り、最終的にTake 10をベースに進む。
(Anthologyでは、オーバーダブの少ない別テイクが聴けて、完成形と意外に近いのが分かる)

この日の制作で重要なのは“曲の中心が何か”がハッキリすること。

  • アコギと歌で“童謡っぽい語り”を立てる
  • リズム隊は派手にしない(でも暗い推進力は切らない)
  • オルガン系の持続音で、部屋の空気を濁らせる

6) ここで事件:エンジニアのGeoff Emerickが限界で離脱

制作史の“生々しい”逸話がこれ。
7/16のセッション中、当時の緊張・罵声・ギスギスに嫌気が差して、長年の重要エンジニアだったGeoff Emerickが現場から離れる流れになる。

ホワイト・アルバムって、音は最高に多彩なのに、
裏では“仲良しバンド”の空気じゃない。
その現実が、こういうスタッフの動きにまで出る。


7) 1968-07-18:同時多発オーバーダブで“絵本”を“夜の儀式”へ変える

7/18が決定打。4トラックの空きが少ない中で、同じトラックに同時進行で色々録るという力技をやる。

この日に入る要素が、曲の不気味さを完成させる。

  • ジョンのリードボーカル差し替え(特にヴァース側)
  • ポールのハーモニー(ポイントで刺す)
  • ジョージ・マーティンの下降するハーモニウム導入(これが“落ちていく感じ”を作る)
  • リンゴのタンバリン
  • ジョージのエレキ
  • そして、歌詞中の“お茶会”っぽい場面に合わせた効果音(ティーパーティー的なガチャガチャ)

この曲の怖さって、ホラーのSEみたいな直球じゃなく、
“普通の家庭・王様ごっこ・お茶会”の音が、夜の変な儀式に聞こえてくるところにある。


8) ミックスの仕上げ:冒頭アコギに“揺れ”を付けて、入口から現実感をズラす

完成版って、冒頭のアコギがまっすぐじゃない。
ミックス段階でフランジャー的な揺れ(フランジング)が付いて、入口から“夢っぽい”方向へ傾く。

やってることは地味だが、効き目は大きい。

  • 童謡っぽい題材なのに
  • 音の入口がすでに“現実じゃない”

だから聴いてる側は、最初から不安になる。


9) そして最大の仕掛け:後ろに貼られる“別曲”「Can You Take Me Back?」

ホワイト・アルバムの並びで一番イヤらしい(褒めてる)ポイント。
「Cry Baby Cry」が終わった直後、短い余韻としてポールの即興断片が挟まる。一般には「Can You Take Me Back?」と呼ばれるやつだ。

重要なのは、これが

  • 「Cry Baby Cry」のコーダとして録ったものじゃなく
  • 別日の「I Will」セッション中に録られた即興の一部で
  • それを後から編集で切り出して貼ったって点

結果どうなるか。

  • “童話の悪夢”が終わってホッとした瞬間に
  • もう一回、現実っぽい声とギターが出てきて
  • そこから「Revolution 9」に突き落とされる

これ、アルバム編集として相当えげつない流れ作りだ。


10) 聴き方ガイド(一般向け:ここだけ押さえりゃOK)

  • 「Savoy Truffle」→本曲→(即興断片)→「Revolution 9」で聴け
    この曲、単体より“並び”で怖さが完成する。
  • ハーモニウムの下降を拾え
    “夜へ沈む”感じの正体がここにある。
  • 効果音(ティーパーティーっぽい雑音)
    あれが入ると、絵本が一段キモくなる。
  • 最後の即興断片は「曲」じゃなく“落とし穴の前の板”
    そこを踏んだら次はRevolution 9だ。

まとめ(この曲の本質)

「Cry Baby Cry」は、
童謡の王国セットを借りて、スタジオ処理とオーバーダブで“夜の儀式”へ変換し、さらに別日録音の即興断片を貼ってアルバムの奈落(Revolution 9)へ誘導する、ホワイト・アルバム編集美学の代表例だ。

かわいいフリして、けっこう冷たい。
そこがジョンの黒さで、1968年のビートルズの空気でもある。


参考リンク(検証用)

  • 曲解説(背景・スタジオ情報)
    https://www.beatlesbible.com/songs/cry-baby-cry/
  • 1968-07-15(リハ中心の日)
    https://www.beatlesbible.com/1968/07/15/recording-mixing-revolution-ob-la-di-ob-la-da-cry-baby-cry/
  • 1968-07-16(本録り10テイク/リダクション)
    https://www.beatlesbible.com/1968/07/16/recording-cry-baby-cry/
  • 1968-07-18(仕上げオーバーダブ/効果音/ハーモニウム導入)
    https://www.beatlesbible.com/1968/07/18/recording-cry-baby-cry-helter-skelter/
  • 「Can You Take Me Back?」断片(概要)
    https://www.beatlesbible.com/songs/can-you-take-me-back/
  • 公式ページ(基本情報)
    https://www.thebeatles.com/cry-baby-cry
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