【制作史で読む】The Beatles「All I’ve Got to Do」──“スモーキー風”を狙ったのに、録音現場が一番ドラマだった曲

「All I’ve Got to Do」は派手じゃない。むしろ地味だ。
でも制作史を追うと、これが“手馴れた一発録り”じゃなく、スタジオで転びまくってから決まった曲だって分かる。
しかもジョン自身が「またスモーキー(Smokey Robinson)をやろうとしてた」系の曲。狙いはソウル寄り、なのに現場は意外とバタバタしてる。


1) ざっくり年表(迷子防止)

  • 1963-09-11:アビー・ロード(EMI)で録音(14テイク+オーバーダブで決定テイクへ)
  • 1963-09-30:モノラル・ミックス
  • 1963-10-29:ステレオ・ミックス(当時ステレオは“ついで”扱いで、短時間でまとめて作業)
  • 1963-11-22:英『With the Beatles』(モノ)発売、アルバム2曲目に収録
  • 1963-11-30:英『With the Beatles』(ステレオ)発売
  • 1964-01-20:米『Meet the Beatles!』で初登場(米国向け編集の中で“オリジナル曲”として押し出される)
  • 2009-09-09:モノ版リマスターBOX(『The Beatles in Mono』)で“真ん中にまとまる音”が聴きやすくなる

2) 生まれ方:ジョンが狙ったのは“スモーキー風のソウル”

この曲は、ジョンがSmokey Robinson & The Miraclesみたいな“柔らかいソウル感”を狙ったタイプとして語られることが多い。
実際、UK2ndアルバム『With the Beatles』には「You Really Got a Hold on Me」(Miraclesの代表曲)も入ってて、当時の彼らがアメリカR&B/ソウルに寄ってた空気がそのまま出てる。

それに加えて、この曲は「電話で呼び出す」発想が核にある。
当時の英国の感覚だと電話はそこまで身近じゃなく、ジョンは“アメリカ市場を意識した”というニュアンスの話も残ってる。
(※ここ、歌詞引用なしでも背景として十分効くポイント)


3) 1963年9月11日:録音は“1日で終わった”のに、テイクは多い

面白いのがここ。
「All I’ve Got to Do」は録音自体は1日のセッションで完了してる。ところが、テイクは14。さらにオーバーダブで決定形になってる。

内訳としては、途中で止まった“やり直し(false start)”が多い
理由としてよく挙げられるのが、ライブで揉まれてない曲だったこと。ステージで手癖になってないから、スタジオで噛む。ここが人間くさくて最高だ。

結果として「録り直し地獄」ではなく、
転びながら形を整えて、最後に“スッ”と決まったタイプの録音になった。


4) ミックスの話:この曲は“モノで聴くと性格が変わる”

制作史で外せないのがミックス。

  • モノ(1963/09/30):当時の本命。音が中心にまとまって、歌とバンドが一体になる
  • ステレオ(1963/10/29):当時は優先度が低く、短時間でまとめて作られた結果、左右に極端に分かれる聴こえ方になりがち

この曲は特に、ボーカルの湿度バックのまとまりが命だから、モノ(または“中央に寄って聴こえる環境”)の方が刺さる人が多い。


5) リリースの立ち位置:英では“2曲目”、米では“オリジナル推し”の材料

英『With the Beatles』では、A面2曲目。
アルバムの流れとしては「It Won’t Be Long」で勢いを出して、すぐこの曲で温度を落としてくる。構成がニクい。

一方、米『Meet the Beatles!』は編集方針が違って、
英国盤に入ってたカバー曲を削って“自作曲中心のバンド”として売る狙いが強い。
だから「All I’ve Got to Do」みたいな“ジョン主導のオリジナル”が、米国向けの武器として綺麗に機能する。


6) 地味にデカい聴きどころ:ベースが“曲の骨格”を作ってる

この曲、派手なフレーズで驚かせるんじゃなく、
ベースがコード感(和声感)を支える作りになってて、そこが独特だと言われる。

ドラムが暴れず、ギターも派手に前へ出ず、
“下から持ち上げる”感じで曲が進む。だからボーカルの陰影が目立つ。
静かなのに、落ちない。ここが中毒性。


7) 聴き比べガイド(これだけでOK)

  • 英『With the Beatles』モノ(モノBOX/2009など)
    まずこれ。歌と演奏が“同じ場所”にいて、曲の湿度が出る
  • 英『With the Beatles』ステレオ(2009リマスター等)
    左右分離が強くて、分析向き。ボーカルやコーラスの配置が分かりやすい
  • 米『Meet the Beatles!』の流れで聴く
    “オリジナル曲推しの米国戦略”の一部として聴くと、曲の役割が見えて面白い

まとめ(この曲の本質)

「All I’ve Got to Do」は、
スモーキー風の甘い狙いと、ライブで鍛えてないからこそ出たスタジオの生々しさが同居してる曲だ。

派手じゃない。
でも制作史を知るほど、じわじわ強くなる。そういうタイプの名曲。


参考リンク(検証用)

  • 曲データ/録音日・ミックス日・背景(Wikipedia)
    https://en.wikipedia.org/wiki/All_I%27ve_Got_to_Do
  • 録音セッション(1963-09-11、14テイク+オーバーダブ)
    https://www.beatlesbible.com/1963/09/11/recording-i-wanna-be-your-man-little-child-all-ive-got-to-do-not-a-second-time-dont-bother-me/
  • 曲ページ(false start多め等の詳細)
    https://www.beatlesbible.com/songs/all-ive-got-to-do/
  • モノ・ミックス日(1963-09-30)
    https://www.beatlesbible.com/1963/09/30/recording-editing-mixing-with-the-beatles/
  • ステレオ・ミックス背景(当時ステレオが二次扱いだった話)
    https://www.beatlesbible.com/1963/10/29/stereo-mixing-with-the-beatles-lp/
  • 公式:曲ページ(英モノ/ステレオ発売日の表記あり)
    https://www.thebeatles.com/all-ive-got-do
  • 公式:米『Meet the Beatles!』発売日の説明(1964-01-20)
    https://www.thebeatles.com/us-1964-albums
  • 『Meet the Beatles!』発売日(確認用)
    https://en.wikipedia.org/wiki/Meet_the_Beatles%21
  • 2009 モノBOX(発売日の確認)
    https://en.wikipedia.org/wiki/The_Beatles_Box_Set

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