「The Continuing Story of Bungalow Bill」は『The Beatles(通称ホワイト・アルバム)』の前半、「Wild Honey Pie」の直後に放り込まれる“寸劇ソング”だ。
短いのに、情報量が多い。しかも作りが妙にヘン。そこがいい。
制作史で一番うまいポイントはこれ。
- ネタ元は、1968年のインド(リシケシ)で起きたとされる“精神修行中なのに虎狩りに行った青年”の話
- 1968-10-08の夜(4pm〜8amの長丁場)に録音して、たった3テイクで土台が決まる
- そこへヨーコの一行リード、スタジオにいた人たちを巻き込んだ合唱・手拍子・口笛を重ねて、
「完成度」じゃなく“いまそこで起きた騒ぎ”として成立させた
1) ざっくり年表(迷子防止)
- 1968年初春:インド・リシケシでの滞在中に着想(マハリシのアシュラム周辺の出来事が元ネタ)
- 1968-10-08:EMI(アビー・ロード)で録音。3テイクで基本形→同日に大量オーバーダブ
- 1968-10-09:前日のTake 3からモノ/ステレオのミックスが作られる(この日はジョン本人が不在だった記録もある)
- 1968-11-22(英)/ 11-25(米):『The Beatles』発売
2) 背景・逸話:リシケシの“精神修行”と、“虎狩り”のギャップ
この曲が面白いのは、反戦でも恋愛でもなく、「矛盾した善人」をからかう歌になってるところ。
元ネタとして語られるのは、アシュラムにいたアメリカ人の青年(“リック/ビル”と呼ばれることもある)が、
修行の合間に虎狩り(あるいは大物狩り)に参加して戻ってきた──という話。
ジョンの視点はわりと意地悪で、
- “神と一体化したい”顔をしながら
- “撃つこと”にも平気で乗る
このギャップを、少年マンガっぽい語り口(続き物の冒険譚みたいなノリ)で笑いものにする。
つまり「悪党を叩く」より、“いい人っぽいのに矛盾してる奴”を刺す歌だ。
ホワイト・アルバムの皮肉担当、ここにあり。
3) 曲の仕立て:2つの断片を“3発のバスドラ”で縫い合わせる
この曲、ちゃんと聴くと別々のアイデアがガチャっと繋がってる。
その縫い目が、バスドラム3発。
ここが制作的にうまい。
- メロディとして自然に接続するんじゃなく
- “編集で繋いだ感”を隠さず
- むしろ寸劇っぽさを強める
結果、音楽というより「舞台の転換」みたいに聞こえる。
“曲としての完成度”より、“場面の切り替え”が主役。
4) 1968-10-08:4pm〜8amの長丁場で、3テイクで決めて、あとは「騒ぎ」を積む
録音日は1968-10-08。
この日は「I’m So Tired」も同じ夜に録ってて、ホワイト・アルバムの“夜勤モード”が極まってる日。
「Bungalow Bill」は
- 3テイクで基本トラックが成立
- その上に
- ジョン&ヨーコのリード
- ジョンのダブルトラック
- ビートルズ4人+その場にいた人たち(モーリン・スターキー等)を巻き込んだ合唱
- 口笛/手拍子/タンバリン
みたいな“にぎやかし”を重ねていく。
重要なのは、整える方向じゃないってこと。
この曲は最初から「ちょっと雑で、みんなで歌ってる」のが正解に設計されてる。
5) ヨーコの“一行リード”:ビートルズ曲で異例の出来事を、あえて真ん中に置く
この曲の最大の引っかかりは、ヨーコの一行。
“Not when he looked so fierce”
ここ、上手い下手じゃない。
「異物が混ざった」って感触そのものが、曲の毒と一致してる。
- 皮肉な歌
- 寸劇っぽい構成
- “合唱の輪”に、外から来た声が刺さる
ホワイト・アルバムって、バンドの一体感が薄れていく時期でもあるだろ。
その空気が、この一行で“説明なしに”伝わるのが怖い。
6) メロトロンが“劇場の小道具”になる:マンドリン系/バスーン系で童話っぽさを増幅
音作りも寸劇寄り。
- 歌の途中にマンドリンっぽい音色が入って、絵本感が出る
- 終盤の合唱にはバスーン(やブラス系)みたいな音色が足されて、行進曲っぽくなる
さらに有名なのが、頭のスペイン風フレーズ。
これは(少なくとも“その場でギターを弾いた”というより)編集で足されたメロトロン由来の導入として語られることが多く、
“ホワイト・アルバムの編集作業”の中で、曲の前に貼られて完成したタイプのネタだ。
この「貼り付け感」も含めて、ホワイト・アルバムの実験室っぽさ。
7) 1968-10-09:ミックスはTake 3から。しかも“ジョン不在”で回る現場
翌日の1968-10-09には、前日のTake 3からモノ/ステレオのミックスが作られる。
で、この日については「ジョン本人がスタジオにいなかった」という記録が残ってる。
ここが地味に効く。
- 前日にジョンの歌で成立させた曲を
- 翌日にジョンがいない状態で“仕上げる”
こういうズレが、ホワイト・アルバム後半〜終盤に向かう空気の伏線にも見える。
8) 聴き方ガイド(一般向け:ここだけ押さえりゃOK)
- 「Wild Honey Pie」→本曲で聴け
この曲、前後関係込みで“頭がおかしい流れ”が完成する。 - 3発のバスドラ=場面転換として聴け
曲の縫い目を隠してないのが美点。 - ヨーコの一行は“意味”より“質感”
異物感が曲の毒と一致してる。 - 合唱の雑さを楽しめ
精密じゃない。だから“その場の騒ぎ”として刺さる。
まとめ(この曲の本質)
「The Continuing Story of Bungalow Bill」は、
リシケシの逸話をネタに、わざと寸劇化して、3テイクで土台を作り、スタジオ全員の合唱とヨーコの一行で“騒ぎ”として完成させたホワイト・アルバムの皮肉担当だ。
正しさより、毒。
完成度より、場の空気。
それで勝ってるのが、この曲。
参考リンク(検証用)
- The Beatles 公式(曲ページ)
https://www.thebeatles.com/continuing-story-bungalow-bill - Beatles Bible(曲ページ:背景・スタジオ詳細)
https://www.beatlesbible.com/songs/the-continuing-story-of-bungalow-bill/ - Beatles Bible(1968-10-08 セッション)
https://www.beatlesbible.com/1968/10/08/recording-long-long-long-im-so-tired-the-continuing-story-of-bungalow-bill/ - Beatles Bible(1968-10-09 ミックス)
https://www.beatlesbible.com/1968/10/09/recording-long-long-long-why-dont-we-do-it-in-the-road/ - Wikipedia(概要の整理)
https://en.wikipedia.org/wiki/The_Continuing_Story_of_Bungalow_Bill
