「Don’t Pass Me By」は、完成度で聴く曲じゃない。
これは存在証明の歌だ。
リンゴが「自分の曲を、自分の名前で、自分の声で」出す。
ビートルズ史で見れば、それ自体が事件だった。
制作史の肝はここ。
- 構想は1964年頃。ツアー全盛期から存在していたが、長年“棚上げ”されていた
- リンゴ初の単独作曲曲として、1968年にようやく正式レコーディング
- ホワイト・アルバム期の「個人制作化」がなければ成立しなかった
- ロック的完成度より、本人が歌える形を最優先した異色作
1) ざっくり年表(迷子防止)
- 1964年頃:リンゴが原型を作り始める(初期ツアー時代)
- 1968-06-05:EMIスタジオで録音開始
- 1968-06月:複数テイクを経て完成形へ
- 1968-11-22:『The Beatles(ホワイト・アルバム)』発売
- 1996:『Anthology 3』で初期バージョン公開
2) 背景:リンゴの曲は「悪くない」じゃ足りなかった
ビートルズ初期〜中期において、
リンゴの立場ははっきりしていた。
- ドラムは不可欠
- キャラクターも人気
- でも「作曲家」としては想定されていない
「Don’t Pass Me By」が早くから存在していたにもかかわらず、
何年も形にならなかった理由は単純だ。
ジョンとポールの曲が、常に優先されたから。
曲が悪かったわけじゃない。
ただ、順番が回ってこなかった。
この状況が変わるのが1968年。
インド滞在後、ホワイト・アルバム制作に入ると、
ビートルズは事実上「個人が曲を持ち込み、必要な人だけ集まる」体制になる。
ここで、リンゴの番がやっと来る。
3) 録音の実態:バンド曲というより“リンゴの現場”
1968年6月5日、EMIスタジオ。
この日の「Don’t Pass Me By」は、
いわゆる“全員参加のビートルズ録音”とは空気が違う。
- 主導:リンゴ
- 実働:リンゴ+ポール中心
- ジョン、ジョージの関与は限定的
象徴的なのが、リンゴがドラムを叩いていないこと。
彼はボーカルとタンバリンに専念する。
代わりに目立つのが、フィドル(ヴァイオリン)。
ロックバンドとしてはかなり異例で、
この音が曲全体を一気に“場違い”な方向へ引っ張る。
だが、その違和感こそが、この曲の正体だ。
4) 完成度より「歌えること」を選んだ判断
「Don’t Pass Me By」は、テンポが揺れる。
演奏も整っているとは言いがたい。
だが、それは事故じゃない。
- 歌いやすいキー
- 無理をしないメロディ
- 技巧より感情優先
リンゴにとって重要だったのは、
“うまく聴こえるか”ではなく、
「最後まで自分の曲として立てるか」だった。
この割り切りは、
ジョンやポールの作家性とは真逆だが、
だからこそホワイト・アルバムに居場所がある。
5) 音の聴きどころ(一般向け)
- フィドルの暴れ方:整ってないのに耳に残る
- 揺れるテンポ:人が演奏してる感が前に出る
- リンゴの声:技巧ゼロ、でも嘘がない
この曲は「上手さ」で評価すると負ける。
正直さで聴くと、一気に意味が変わる。
6) ホワイト・アルバムだから許された一曲
もしこの曲が、
- 『Revolver』
- 『Sgt. Pepper』
- 『Abbey Road』
に入っていたら、確実に浮いた。
でもホワイト・アルバムは違う。
- 雑多
- 分裂
- まとまりがない
だからこそ、
「Don’t Pass Me By」も堂々と居座れる。
これはアルバムの欠点じゃない。
後期ビートルズの現実だ。
まとめ(この曲の本質)
「Don’t Pass Me By」は、
名曲でも代表曲でもない。
だが制作史で見ると、これは
リンゴが初めて“自分の席に座れた瞬間”を記録した曲だ。
完成度より存在。
技巧より順番。
ホワイト・アルバムという混沌がなければ、
この曲は今も引き出しの中に眠っていたかもしれない。
不器用だけど、消えない。
それが、この曲の強さだ。
参考リンク(検証用)
- The Beatles 公式
https://www.thebeatles.com/ - Beatles Bible(曲ページ)
https://www.beatlesbible.com/songs/dont-pass-me-by/ - Wikipedia(概要)
https://en.wikipedia.org/wiki/Don%27t_Pass_Me_By
