「Anna (Go to Him)」は、ビートルズのデビュー盤『Please Please Me』の中でも、温度がスッと下がる“泣き枠”だ。
派手さはない。だが制作史を追うと、これは「たまたま入れたカバー」じゃなくて、ジョンが本気で好きで、ライブで育てて、アルバムの空気を作るために置いた曲だってのが見えてくる。
しかも録音は、あの伝説の“ほぼ1日でアルバムを録った日”のど真ん中。
疲労が溜まってる時間帯に、あえてこういう湿った曲を録ってるのがニクい。
- 1) ざっくり年表(迷子防止)
- 2) 原曲の背景:アーサー・アレクサンダーって誰だよ問題
- 3) なんでビートルズがこの曲を選んだ?──答えはシンプル、ジョンが好き
- 4) 1963-02-11:伝説の“1日レコーディング”の中で録られた
- 5) テイク数は3。短いけど、狙いは細かい
- 6) ジョンの歌が“妙に生々しい”理由(※断定はしない)
- 7) アルバムの中での置かれ方が上手い:「Misery」→「Anna」→「Chains」
- 8) 1963年のBBC再録:同じ曲を“放送用”に何度もやるバンドだった
- 9) 米国リリース事情:英盤通りに出ないのが当たり前だった
- 10) 聴き方ガイド(一般向け:これだけでOK)
- まとめ(この曲の本質)
- 参考リンク(検証用)
1) ざっくり年表(迷子防止)
- 1962-09-17:アーサー・アレクサンダーのオリジナルがシングル発売(米)
- 1962年後半〜:ビートルズのライブ・セットに定着(ジョンの持ち歌枠)
- 1963-02-11:EMI(アビー・ロード)で録音(3テイク、テイク3採用)※『Please Please Me』大半を録った日
- 1963-03-22:英『Please Please Me』でリリース
- 1963-06-17:BBC「Pop Go The Beatles」用に再録(放送は6/25)
- 1963-08-01:BBC「Pop Go The Beatles」用に再録(放送は8/25)
- 1964-01-10:米での初出(米盤のリリース事情に巻き込まれる)
- 2013:BBC音源が公式編集盤/デジタル盤で聴ける形になる
2) 原曲の背景:アーサー・アレクサンダーって誰だよ問題
まず原曲のアーサー・アレクサンダー。
60年代初頭の“ソウル/R&Bど真ん中”の歌い手で、メロディは甘いのに、歌は妙に苦いタイプ。
「Anna」はまさにそれで、押しつけがましくないのに、諦めきれない感じがずっと残る。
ビートルズは、こういう米R&Bを本気で吸ってる。
ロックンロールだけじゃなく、“湿ったR&B”も自分らの血肉にしてたのが初期の強さ。
3) なんでビートルズがこの曲を選んだ?──答えはシンプル、ジョンが好き
制作史的に重要なのはここ。
この曲、最初から「ジョンの曲」みたいな顔をしてる。実際、ライブ時代からジョンが歌ってきた持ち歌で、レパートリーとして仕上がってた。
だから『Please Please Me』での役割もハッキリしてる。
- アルバムに“アメリカのR&Bの匂い”を入れる
- 速い曲ばかりにしないで、感情の振れ幅を作る
- ジョンの声の“黒さ”と“痛さ”を見せる
いわば「このバンド、ただの元気ロックじゃないぞ」って言うための一曲。
4) 1963-02-11:伝説の“1日レコーディング”の中で録られた
『Please Please Me』の大半は、1963年2月11日に集中して録られた。
「朝から夜まででアルバムを作った日」ってやつだな。
で、「Anna」はその日の夜セッションで録られてる。
流れとしては、他曲のテイクを重ねて疲労が出てくる時間帯に差し掛かったところで、「Anna」を3テイクで仕留める。
ここがポイントで、
- 何十テイクも迷う曲じゃない(ライブで育ってる)
- でも“気持ちのノリ”が重要(スタジオの空気がそのまま出る)
- 夜の疲れたテンションが、むしろ曲に合ってしまう
結果として、デビュー盤なのにやけに“色気と苦さ”がある録音になった。
5) テイク数は3。短いけど、狙いは細かい
録音は3テイクで、最後(テイク3)が採用。
パッと見は簡単そうに見えるが、細部はちゃんと「原曲のツボ」を移植してる。
一番分かりやすいのは、原曲で目立つ“あの印象的なフレーズ”。
原曲ではピアノの小粋なフレーズが効いてるんだが、ビートルズ版ではそれをジョージのギターで置き換える。
ここで一気に「ビートルズの音」になる。
編成もシンプルで、余計なものを盛らない。
だからこそ、歌とギターの表情が前に出る。
6) ジョンの歌が“妙に生々しい”理由(※断定はしない)
この曲の魅力は、結局ジョンのボーカルに尽きる。
よく「ちょっと掠れてる」「風邪気味っぽい」みたいに言われるが、ここは断定できる話じゃない。
ただ、制作史の文脈としてはこう考えるのが筋が通る。
- 長時間セッションの夜で、喉も身体も疲れてる
- しかも曲の内容が“未練・諦め・負け”側の感情
- だから“綺麗に歌う”より“感情が滲む”ほうが勝つ
結果、完璧に整った歌唱じゃなくて、心の汗みたいなものが残る。
それがこの曲の価値になってる。
7) アルバムの中での置かれ方が上手い:「Misery」→「Anna」→「Chains」
『Please Please Me』の流れで聴くと、「Anna」は単体以上に効く。
周囲の曲が比較的軽快だったり、ポップに流れたりする中で、ここだけ“影”が濃くなる。
この配置は、デビュー盤としてはかなり大人だ。
- 明るいだけじゃない
- 速いだけじゃない
- ちゃんと“泣き”を入れて、バンドの幅を見せる
初手から「全部持ってる」感を出してくるのがビートルズらしい。
8) 1963年のBBC再録:同じ曲を“放送用”に何度もやるバンドだった
制作史で面白いのが、スタジオ盤だけじゃなくBBCで何度も録り直してる点。
当時の英国ラジオは「レコードを流す」より「スタジオ演奏」が重視されてたから、売るにはBBC出演が必須だった。
「Anna」も例外じゃなく、
- 1963-06-17:BBC収録(放送は6/25)
- 1963-08-01:BBC収録(放送は8/25)
と、少なくとも2回“放送用”にやり直してる。
これが何を意味するかっていうと、
ビートルズは「録音して終わり」じゃなく、曲を用途別に運用するプロ集団だったってことだ。
9) 米国リリース事情:英盤通りに出ないのが当たり前だった
初期ビートルズは、英国と米国でアルバム構成も発売タイミングもズレまくる時代。
「Anna」もその流れに巻き込まれる。
英国では1963年のデビュー盤収録曲として自然に聴かれるが、
米国ではレーベル都合の編集や発売遅れで、“米での初出”が別日扱いになってしまう。
この“英米ギャップ”も、初期ビートルズの制作史を語るうえで外せない特徴だ。
10) 聴き方ガイド(一般向け:これだけでOK)
- まず『Please Please Me』の流れで聴く
いきなり単曲より、アルバムの温度差の中で刺さる。 - 次にBBC版を聴く
スタジオ盤の“湿度”と、放送用の“現場感”の違いが分かる。
同じ曲でも、歌い方が微妙に変わるのが面白い。 - 最後にジョージのギターフレーズだけ追う
原曲のニュアンスを“ギターで翻訳”してる。ここが職人。
まとめ(この曲の本質)
「Anna (Go to Him)」は、
ジョンが偏愛してライブで育てたソウル曲を、伝説の1日レコーディングの夜に3テイクで仕留めた──そんな曲だ。
- 原曲の“苦さ”を残しつつ
- ビートルズの音(ギターの置き換え)に翻訳し
- デビュー盤に“影”と“幅”を作る役割を担った
初期ビートルズのカバーって「埋め草」じゃない。
こいつは“武器”だ。
参考リンク(検証用)
- 曲ページ(録音日/3テイク/BBC再録の日付)
https://www.beatlesbible.com/songs/anna-go-to-him/ - 1963-02-11(『Please Please Me』主要録音日の流れの中で「Anna」3テイクの記録)
https://www.beatlesbible.com/1963/02/11/recording-please-please-me-lp/ - Beatles公式(原曲リリース日・英リリース日などの基本情報)
https://www.thebeatles.com/anna-go-him - 原曲(Arthur Alexander)リリース日など(概要確認)
https://en.wikipedia.org/wiki/Anna_(Go_to_Him) - BBC音源(On Air – Live at the BBC Vol.2 の収録情報)
https://www.thebeatles.com/air-live-bbc-volume-2

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