【制作史で読む】The Beatles「Blackbird」──白盤の夜、ほぼ独りで32テイク。足音と鳥の鳴き声で“希望”を録った曲

「Blackbird」はホワイト・アルバム(『The Beatles』)の中でも、やけに静かで、やけに強い。
バンド全員でぶつかり合う曲が山ほどある盤の中で、これは逆に“ほぼポール一人”で成立してる。
制作史を追うと、この曲は「シンプル」じゃない。シンプル“に見えるように削った”記録なんだわ。


1) ざっくり年表(迷子防止)

  • 1968年春:インド滞在期にアイデアが育つ(白盤の核になる時期)
  • 1968-06-11:アビー・ロード(EMI)Studio Twoで録音。ポールがほぼ単独で32テイク回す
    └ 同日、別スタジオでジョンは「Revolution 9」関連の作業を進めていた記録がある
    └ Appleの撮影クルーも入り、演奏風景がフィルムに残る
  • 1968-11-22:英『The Beatles(White Album)』発売(収録曲として世に出る)

2) “白盤の真ん中”に置かれた意味:喧騒の中の「呼吸」

曲順で見ると「Blackbird」は、前後が濃い。

  • 前:Piggies(毒)
  • 後:Rocky Raccoon(物語)

その間に「Blackbird」が挟まることで、アルバムが一瞬だけ“呼吸”する。
でも休憩じゃない。静かに刺す、別種の刃だ。


3) 曲の芯:鳥の歌に見せかけた“現実の歌”

タイトルから「鳥の歌」だと思われがちだけど、ポールは後年、この曲を公民権運動(特に南部の差別)と結びつけて語ってる。
“Blackbird”をただの鳥じゃなく、傷ついた誰か(とくに黒人の女の子たち)の象徴として置いた、ってニュアンスだ。

だからこの曲の本当のテーマは、景色の描写じゃない。

  • 折れたものを、学び直して飛ぶ
  • 暗い夜の中で、光の方向へ行く
  • 「待ってた瞬間」が来る

こういう“希望の構造”を、説教じゃなく寓話として鳴らしてる。


4) 1968-06-11:制作史の山場──「ほぼ独演」で32テイク回す

この曲の録音は、派手な出来事が少ない代わりに、執念の作業ログが濃い。

4-1) 32テイク=迷いじゃなく、精度の追い込み

ポールはこの日、32テイク録る。
ただし全部が完走じゃない。途中で止めたテイクも多い(“最後まで通せたテイク”は一部だけ)。

ここがポイントで、バンド曲みたいに「勢いでOK」じゃなく、

  • 指のノイズ
  • 声の息づかい
  • テンポの揺れ(後述の“足音”)
  • 1フレーズごとの質感

このへんを“自然に聴こえる範囲で”揃えるために回してる。
つまり、生っぽさを残すために、テイクを重ねるという逆説。

4-2) 音は実質3つだけ(+鳥)

この曲で“その場で鳴ってる”のは基本これだけ。

  • ポールの歌
  • アコギ(Martin D-28とされる)
  • 足で刻むタップ音(これが誤解されやすい)

で、ここに後で鳥の鳴き声が乗る。

昔は「メトロノームが鳴ってる」と誤解されがちだったけど、あれは機械音じゃなく、ポールが足で刻んでる音だと説明されている。
テンポが微妙に揺れるのも、その“生身”のせいで、逆に曲の体温になる。

4-3) “ほぼ独演”でも完全ソロじゃない:ダブルトラックの魔法

完成形では、必要な箇所だけ

  • ボーカルを部分的にダブル
  • ギターをもう1本だけ重ねる

みたいな「最小限の補強」が入る。
この“盛らない補強”が上手くて、ソロっぽいのに薄くならない。


5) 鳥の鳴き声:現場録音じゃなく「効果音」で世界を作る

「Blackbird」の鳥は、スタジオで鳥を飼って録った…みたいな話じゃない。
基本は効果音(サウンド・エフェクト)として足されている。

さらにマニア向けの小ネタとして、

  • モノ版とステレオ版で鳥が入るタイミングが微妙に違う
    みたいな差もある。こういう細部が「白盤は1つじゃない」感を増やしてる。

6) “撮影が入った日”という事実:演奏がフィルムに残る

この日のスタジオにはApple側の撮影が入り、ポールがアコギで「Blackbird」を形にしていく様子がフィルムに残ってる。
制作史的にはデカい。だって、当時のビートルズ録音って「音は残るけど、手元が残らない」ことが多いからな。

指の動き、足のタップ、空気感。
この曲は“録音物”だけじゃなく、作ってる姿も含めて伝説化してる。


7) 聴き方ガイド(一般向け:ここだけ押さえりゃOK)

  • 足音(タップ)を探せ
    左側に寄って聴こえることが多い。テンポの揺れが“人間”だと分かる。
  • 弦の擦れ・指の移動音を味わえ
    消してない。ここが“生”の証拠で、曲の親密さになる。
  • 鳥はBGMじゃなく“出口”
    曲の最後に空間が外へ開いていく。あれがこの曲の余韻を決める。
  • 前後の曲とセットで聴け
    「Piggies → Blackbird → Rocky Raccoon」で、白盤の“混沌→祈り→物語”の流れが見える。

まとめ(この曲の本質)

「Blackbird」は、
ポールがほぼ独りで32テイク回し、声・ギター・足音という最小構成で“希望の構造”を録り、効果音の鳥で世界を外へ開いた曲だ。

小さい音の曲ほど、制作の意志が露骨に出る。
「簡単そうに聴こえるのに、真似すると地獄」──それがこの曲。


参考リンク(検証用)

  • The Beatles 公式(曲ページ)
    https://www.thebeatles.com/blackbird
  • Beatles Bible(曲ページ)
    https://www.beatlesbible.com/songs/blackbird/
  • Beatles Bible(1968-06-11 セッション詳細)
    https://www.beatlesbible.com/1968/06/11/recording-mixing-blackbird-revolution-9/
  • Wikipedia(概要整理)
    https://en.wikipedia.org/wiki/Blackbird_(Beatles_song)

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