「Mr. Kite!」は『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』の中でも、音が鳴った瞬間に世界が変わる曲だ。
やってることは単純じゃない。古いサーカスの告知ポスターをほぼそのまま歌詞にして、さらに見世物小屋の“騒音”をテープ編集で人工的に作る。
制作史を辿ると、これは「サイケ」って言葉で雑に片付けたくない、“作曲+編集”のハイブリッド作品だって分かる。
1) ざっくり年表(迷子防止)
- 1967年初頭:ジョンが古いサーカス告知ポスターを入手(これが歌詞の元ネタ)
- 1967年2月:アビー・ロード(EMI)で録音開始〜オーバーダブ、テープ編集で“サーカス音響”を構築
- 1967-06-01:英『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』発売(アルバム中盤の“異世界ゾーン”担当)
※日付は資料によって細部が揺れることがあるが、大枠は「1967年2月のペパー制作ど真ん中」で固い。
2) そもそも何がしたかった?──「ペパー一座」の“見世物曲”を作る
『Sgt. Pepper』って、ただの曲集じゃなく「架空の一座が演奏するショー」みたいな体裁だろ。
「Mr. Kite!」は、その中でも特に分かりやすい“見世物小屋”担当。
- メロディで泣かせるんじゃなく
- 空気(音響)で「そこに連れていく」
- そして歌詞も「物語」じゃなく“口上(呼び込み)”に寄せる
この設計の時点で、普通のロックから外れてる。
3) 歌詞の正体:ほぼ“実在のサーカスポスター”からの抜粋
この曲が面白いのは、歌詞が「ジョンの詩」っぽいのに、実はかなり現物由来って点。
ジョンが手に入れたのは、19世紀のサーカス(Pablo Fanque)告知ポスターだと言われていて、そこに書いてある
- “Mr. Kite”
- “The Hendersons”
- “Henry the Horse”
- “benefit”
- “somersets” など
そういう固有名詞や煽り文句を、ほぼそのまま曲に移植してる。
つまりジョンはここで、“自分で言葉を捻る”より
「現物の胡散臭さ」をそのまま持ってくるっていう、めちゃくちゃ強い手を使ってる。
4) 曲の作りが“口上”そのもの:サビで爆発するんじゃなく、看板が次々出る
「Mr. Kite!」は、いわゆるサビでスカッとする曲じゃない。
テンションは上がるけど、構造はずっと“呼び込み”。
- 何が見られる
- 誰が出る
- どれだけ凄い
- 今夜限りだ
そういう“見世物の看板”が次々出てくる感じ。
ここが、歌詞がポスター由来であることと噛み合ってる。
5) 録音の肝:楽器演奏だけでサーカスにしない。編集で“サーカスを発生”させる
この曲の制作史の一番うまい所は、後半の“ぐるぐる回る見世物感”が
演奏じゃなく テープ編集(コラージュ)で作られてる点。
当時の証言としてよく語られるのがこれだ。
- フェアグラウンド・オルガン(見世物小屋っぽい音源)を録ったテープを用意する
- それを細かく切り刻む
- 断片を無作為に並べる(投げて拾って貼った、みたいな逸話まである)
- それをループや重ね合わせで回し、曲後半に突っ込む
つまり、ここでの“サイケ感”はキノコじゃない。
ハサミとテープと発想だ。
6) サウンドの要素:変な音色の寄せ集めが、結果として“統一感”になる
「Mr. Kite!」は、1つの主役楽器で押すというより
「変な音が多すぎて、それが世界観になる」タイプ。
- オルガン/ハーモニウム系の持続音(宗教っぽい不穏さ)
- 低音の支え(地面を作る)
- そしてテープコラージュの“機械仕掛けの遊園地”
音色が気持ち悪いのに、曲として破綻しない。
このバランスが、ジョージ・マーティンとエメリック周辺の仕事の強さだと思う。
7) アルバムの中での役割:中盤の“現実切断装置”
『Sgt. Pepper』って、前半〜中盤にかけて「現実を切り替える装置」が何個もある。
「Mr. Kite!」はその中でも分かりやすい。
- それまでの“バンド曲”の延長じゃなく
- 一気に“ショーの演目”へ飛ばす
- 聴き手の足場を外して、アルバムの世界に固定する
ここで脳が「普通のロックを聴いてる」状態から外れる。
8) 聴き方ガイド(一般向け:ここだけ押さえりゃOK)
- 前半は“呼び込みの歌”として聴け
物語じゃなく、看板が出てくる口上だと思うとスッと入る。 - 後半は“演奏”じゃなく“編集”として聴け
何が弾かれてるかより、何が貼られて回ってるかを追うと面白い。 - ヘッドホン推奨
テープ断片の層が見える。スピーカーだと“ただの騒ぎ”に聞こえる瞬間がある。
まとめ(この曲の本質)
「Being for the Benefit of Mr. Kite!」は、
実在のサーカスポスターの言葉を歌詞にし、さらにテープ編集で“見世物小屋の音響”を人工的に発生させた、作曲+編集の合体曲だ。
サイケってのは“ふわっとした雰囲気”じゃない。
この曲は、手作業で狂気を組み立てたから怖い。
参考リンク(検証用)
- The Beatles 公式(曲ページ)
https://www.thebeatles.com/being-benefit-mr-kite - Beatles Bible(制作メモ・セッション整理)
https://www.beatlesbible.com/songs/being-for-the-benefit-of-mr-kite/ - Wikipedia(ポスター由来・概要整理)
https://en.wikipedia.org/wiki/Being_for_the_Benefit_of_Mr._Kite!

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