【制作史で読む】The Beatles「Because」──月光ソナタの影、9声ハーモニー、そして“終盤組曲”の扉になる静かな爆弾

「Because」は『Abbey Road』の中でも、音量は小さいのに存在感がデカい曲だ。
派手なソロも、ドラムの暴れもない。なのに聴き終わったあと、空気だけが変わってる。
制作史のキモはこの3つ。

  • 発想の火種が「月光ソナタ」だと言われる(クラシックの影を借りて作る)
  • ジョン/ポール/ジョージの3声ハーモニーを三重に録って“9声”にする狂気
  • 『Abbey Road』後半の“組曲パート”へ入る前の、無重力の前室として配置されてる

1) ざっくり年表(迷子防止)

  • 1969年夏:制作が進む(『Abbey Road』期のセッションの一部として録音)
  • 1969-09-26(UK):アルバム『Abbey Road』発売(収録:Side 2の前半)
  • 1969-10-01(US):米発売

※録音日や細部は資料で表現が微妙に揺れることがあるけど、大枠は「1969年夏のアビー・ロード期」で固い。


2) 発想の出どころ:月光ソナタ→“逆にしてみろ”の伝説

有名な逸話がある。
ヨーコがピアノでベートーヴェンの「月光ソナタ」を弾いていた。ジョンがそれを聴いて、
「そのコードを逆にして(あるいはひっくり返して)弾いてみろ」
…みたいなことを言い、そこから「Because」が生まれた、という話。

ここで大事なのは“本当に逆にしたかどうか”の厳密性より、発想の方向だ。

  • ロックをロックだけで作らない
  • クラシックの“影”を借りて、ポップに落とし込む
  • しかも1969年の終盤に、それをやる

『Abbey Road』の成熟が詰まってる。


3) 1969年の空気:まとまらないバンドが「音だけは完璧に揃う」瞬間

『Abbey Road』期は、内部の空気が良い時代じゃない。
なのに「Because」みたいな曲では、3人の声が異様に一体化してる。

ここが怖い。

  • 人間関係がどうでも、音を合わせる時だけは超一流
  • “仲良しバンドのハーモニー”じゃなく、職人の結晶として鳴ってる

4) 録音の骨格:ドラムで押さず、鍵盤と弦で“浮かせる”

「Because」はリズムで押し切らない。
曲の土台は、ざっくり言うと

  • 鍵盤(ハープシコード系の響き)
  • ギター/ベースの支え
  • 後から足されるシンセ(Moog系の質感)

こういう“浮遊させる設計”になってる。

特に鍵盤の響きが、曲の重力を消してる。
ロックの「前へ行け」じゃなく、「そこに留まれ」の音。


5) 本体は“9声コーラス”:3声×3回で作る、ビートルズ流クワイア

制作史で一番うまいところはここだ。

ジョン/ポール/ジョージの3声ハーモニーを1回録る。
それをもう1回、さらにもう1回。
結果、9声の合唱みたいな塊ができる。

やってることはシンプルなのに、成立させるのが難しい。

  • 音程だけ合っててもダメ(息の長さ、母音、入りのタイミングが揃わないと崩れる)
  • 3人の声質が違うからこそ、重ねるほど“厚み”が増える
  • でもズレた瞬間に一気に濁る

つまり、録音技術の勝利じゃなく、歌の精度の勝利なんだよ。


6) “異世界感”の小技:テープスピード(バリスピード)で空気を変える

「Because」のボーカルが妙に現実離れして聞こえる理由として、
テープスピード(バリスピード)を使って質感を調整した、という話がよく語られる。

ここは聴き方のコツがある。

  • ただ高い/低いじゃなく、輪郭が柔らかくなる
  • 息と響きが、少しだけ“人間の距離”から遠ざかる

録音上の一工夫が、曲全体の宗教画みたいな雰囲気を支えてる。


7) 配置が強い:Side 2の「Here Comes the Sun」→「Because」で扉が閉まる

『Abbey Road』のSide 2は、前半に「Here Comes the Sun」「Because」が来て、
そこから後半の“組曲メドレー”に突入する。

この流れ、制作意図としてかなり露骨だ。

  • 「Here Comes the Sun」で光を当てる
  • 「Because」で光を“無音に近い膜”で包む
  • そのまま終盤の長い物語へ入る

「Because」は曲というより、アルバムの扉だ。


8) 聴き方ガイド(一般向け:ここだけ押さえりゃOK)

  • まず9声ハーモニーだけ追え
    3人が“9人”になる瞬間がこの曲の本体。
  • 鍵盤の響きで空間が変わるポイントを探せ
    音が鳴るたびに、部屋の壁が後ろへ下がる感じがある。
  • Side 2を続けて聴け
    「Because」単体も良いが、後半組曲の入口として聴くと凶悪に効く。

まとめ(この曲の本質)

「Because」は、
クラシックの影を借りて作った“無重力の前室”に、9声ハーモニーという職人芸を流し込み、Abbey Road後半へ突入するための扉になった曲だ。

派手じゃない。だがアルバムの空気を支配する。
静かな曲ほど怖いってのを、ビートルズが証明してる。


参考リンク(検証用)

  • The Beatles 公式(曲ページ)
    https://www.thebeatles.com/because
  • Beatles Bible(録音・制作メモの整理に強い)
    https://www.beatlesbible.com/songs/because/
  • Wikipedia(概要の当たり確認用)
    https://en.wikipedia.org/wiki/Because_(Beatles_song)

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