【制作史で読む】The Beatles「Back in the U.S.S.R.」──“帰ってきたぜ”の笑いと攻撃性。リンゴ離脱の夜、2日で仕留めた白盤の開幕砲

「Back in the U.S.S.R.」は『The Beatles(ホワイト・アルバム)』の1曲目。
いきなり“ジェット機の轟音”から始まって、そのままロックンロールでぶん殴ってくる。
でも制作史を追うと、これは単なるネタ曲じゃない。緊張で空気が割れそうな1968年のスタジオで、最悪のムードすら音に変えてしまった曲だ。

見どころはここ。

  • チャック・ベリー&ビーチ・ボーイズのパロディを、ソ連ネタでひっくり返す
  • 1968-08-22〜23の2日で完成(しかも初日が“リンゴ脱退の日”)
  • ドラムが普通じゃない:リンゴ不在で3人が叩く/ポール主導
  • 仕上げで入る飛行機SEが、次曲「Dear Prudence」へ“つなぎ”まで作ってる

1) ざっくり年表(迷子防止)

  • 1968-08-22(木):アビー・ロード(EMI Studio Two)で基本録音。リハ中にリンゴがスタジオを去る
  • 1968-08-23(金):リンゴ不在のままオーバーダブ、モノ・ミックスまで完了。飛行機SEを追加
  • 1968-10-13:ステレオ・ミックス作成
  • 1968-11-22:英『The Beatles(ホワイト・アルバム)』発売、1曲目として世に出る

2) 企画の正体:愛国ロックを“逆側”でやって笑わせる(でも皮肉は鋭い)

骨格は、チャック・ベリーの「Back in the U.S.A.」みたいな“帰国ロック”の型。
そこへビーチ・ボーイズ風のコーラス(疑似サーフ感)を被せて、最後に「帰ってきたのはアメリカじゃなくソ連」でひっくり返す。

この「冗談の形」を借りて、当時の“西側の空気”も笑い飛ばしてる。
軽いのに、やってることは割と危ない。


3) “女の子列挙”は外部の一言が火をつけた(マイク・ラヴの口出し)

歌詞に出てくる「モスクワ」「ウクライナ」「ジョージア」の女の子……あの“観光パンフみたいな列挙”は、ビーチ・ボーイズのマイク・ラヴが「こうしたら面白い」ってアイデアを出した、という有名な証言がある。

この小ネタが入ったせいで、曲が一気に“ビーチ・ボーイズのパロディ”としても成立する。
要するに、曲のギャグ度を1段上げたスイッチがそこ。


4) 1968-08-22:事件の日。リンゴが去っても録音は止めない

この日のセッションは夜から明け方まで。
で、ハイライトは言うまでもなく リンゴが脱退(正確には“一時離脱”)した日ってこと。

制作史の筋はこう。

  • リハ中〜録音中に、リンゴの不満が爆発してスタジオを去る
  • でも残りの3人は止まらない
    ドラムはポール主導+他メンバーも叩いて成立させる方向へ

ここが怖いところで、普通なら曲が止まる。
でもビートルズは「ムード最悪?じゃあそのまま録るわ」ってやる。これが白盤セッションの凶暴さ。


5) 1968-08-23:リンゴ不在のまま“完成”まで持っていく(減速ミックスもやる)

翌日もリンゴは戻らない。
それでも残り3人で、

  • 追加ドラム/ベース/ギター
  • ピアノ
  • リード&コーラス
  • 手拍子

…みたいに上物を積んで、さらに“リダクション(まとめ直し)”までやって完成形に寄せる。

この曲のコーラスが妙に“作り物っぽく”聞こえる瞬間があるだろ?
あれが狙い通りで、ビーチ・ボーイズの影をわざと出してる


6) 飛行機SE:モノは綺麗、ステレオは苦戦──そして「Dear Prudence」に繋がる

この曲は、最後に飛行機の離着陸SEが入る。
で、そのSEが次曲「Dear Prudence」の冒頭にクロスフェードしていく。
つまり曲単体じゃなく、アルバム1曲目として“開幕の演出”を背負ってる

さらに面白いのが制作逸話で、
モノ・ミックスは綺麗に決まったのに、ステレオ・ミックスではSEの扱いが難航して“音が荒れた”って証言まで残ってる。
ホワイト・アルバムが「美しい録音」だけじゃなく「現場の物理と戦った録音」だってのが見えるポイント。


7) “白盤の1曲目”として強すぎる理由

この曲がアルバム頭に置かれてるの、意味がある。

  • 「サージェント」的な作り込みの世界から一気に引きずり出す
  • “政治ネタ”を冗談の形で混ぜて、1968の空気を連れてくる
  • リンゴ離脱という実際の亀裂まで、音のテンションに変換してしまう

結果、1曲目から「このアルバム、落ち着かねえぞ」って宣言になる。


8) 聴き方ガイド(一般向け:ここだけ押さえりゃOK)

  • 冒頭の轟音→突入:1曲目の“開幕演出”として聴くと気持ちいい
  • コーラスの“作り物っぽさ”:ビーチ・ボーイズのパロディだと分かると急に面白くなる
  • ドラムの違和感:均一じゃない。そこがむしろ白盤のリアル
  • 終盤のSE→「Dear Prudence」:2曲続けて聴け。設計が見える

まとめ(この曲の本質)

「Back in the U.S.S.R.」は、
パロディの皮を被った“白盤の開戦布告”だ。

  • 1968-08-22(リンゴ離脱の日)に土台を作り
  • 08-23にリンゴ不在のまま完成まで押し切り
  • 飛行機SEでアルバムの扉をこじ開ける

笑えるのに、音はやたら攻撃的。
その矛盾が1968のビートルズそのものだ。


参考リンク(検証用)

  • Beatles Bible(曲ページ)
    https://www.beatlesbible.com/songs/back-in-the-ussr/
  • Beatles Bible(1968-08-22 セッション詳細)
    https://www.beatlesbible.com/1968/08/22/recording-back-in-the-ussr/
  • Beatles Bible(1968-08-23 セッション詳細/モノミックスとSE)
    https://www.beatlesbible.com/1968/08/23/recording-mixing-back-in-the-ussr/
  • The Beatles 公式(録音日・基本データ)
    https://www.thebeatles.com/back-ussr
  • Wikipedia(概要整理:パロディ元/リリース/リンゴ離脱など)
    https://en.wikipedia.org/wiki/Back_in_the_U.S.S.R.

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